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   神奈川県立津久井やまゆり園」事件についての学会声明

                   







 去る7月26日未明、障害者福祉施設「神奈川県立津久井やまゆり園」で発生した障害者殺傷事件により亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、ご家族の方々に心よりお悔み申し上げます。また、負傷された方々の一日も早いご回復をお祈りいたします。

 私たちは、深夜に抵抗のできない障害者を襲うといったこのような卑劣な行為を決して許すことができません。何より、容疑者が衆議院議長に送った手紙には、「障害者は人間としてではなく、動物として生活を過ごしております。(中略)保護者の同意を得て安楽死できる世界です。(中略)障害者は不幸を作ることしかできません。」など、まさに優生思想そのものが確信犯的に述べられており、断じて許されるものではありません。

 日本臨床心理学会は、1964年の創設以来、科学的心理学における「臨床」のあり方を批判的に検証しつつ、心理支援を必要とする子ども・障害者・当事者と呼ばれる人たちと「共に生きる」専門職団体として歩んできました。その立場からの意見表明を行います。

1.容疑者の根深い偏見や深刻な差別意識は、彼の個人的な思考やパーソナリティーの問題に止めてはなりません。この事件は「あるべき身体」、「あるべき精神」、「あるべき社会」をめざす優生思想によって社会的に形成されたものと思われます。人は一人では生きられません。社会の中で生きるためには、その多様性を排除するような社会システムや価値観を許してはなりません。 二度とこのような事件が起きないようにするためにも、私たち一人ひとりが自分のこととして考え、「わが内なる優生思想」と闘わなければなりません。

2.マスコミは、措置入院の医学的な適正性を吟味することなく、容疑者の措置入院歴のみを大きく取り上げ、精神障害者を危険視する報道を繰り返しています。さらに、「措置入院後のフォローアップなど様々な観点から必要な対策を早急に検討する」と安倍首相が述べるなど、精神保健福祉医療の本質の問題を避けて、精神障害者の隔離への道が強化される事を危惧します。 政府機関及び関係機関においては、精神障害者への偏見を払拭し、精神障害者を隔離収容のないように、ノーマライゼーション/インクルーシヴ社会の実現に向けて取り組むことを要望します。

  今回の事件を契機に心理的社会的マイノリティーに対する差別と偏見が助長される恐れがあります。本学会が追究する臨床的あり方は、「個人の心理的世界をあるがままに受け止め」、その当事者とともに検討して支えることにあります。 殺害された19人の被害者の方々の無念に思いを馳せ、今後より一層の覚悟をもって私たちの共生思想と反優生思想に根ざした学会活動を貫くことを改めて決意表明いたします。


                  2016年7月31日 日本臨床心理学会 会長 亀口 公一