設立趣意書&会則

「子ども社会臨床研究会」設立趣意書

子どもは、「小さな大人」でも「みらいの親」でもありません。まして「おとな社会」
の付属品でもありません。すべての子どもは、独立した固有な人格を持っています。

子どもは、大人とは異なる世界観と価値観をもち、今を生きる最も自然に近い人間です。ただし、子どもは、その発達環境である「おとな社会」の中でしか生きられません。

現在の「おとな社会」は、産業革命によって生まれた近代社会システム(工場・学校・病院・監獄等)を原形としています。大人の多くは、社会の近代化によって知的に加工され、自然から遠ざかった社会的人間にほかなりません。したがって、近代社会における子どもの生活は、親と「おとな社会」の二重の価値基準によって守られつつも、子どもは常に内的葛藤を強いられています。 現代日本の子ども問題は、少子高齢化が急速に進む中で、虐待、不登校、ニート、発達障害概念など専門家にとってもますます見えにくくなっています。

さらにグローバル化するIT情報化社会は、人間の感性まで操作しようとしています。私たち大人は改めて「子どもの発達とは何か」、「子どもにとっての危機とは何か」を問い直さなければなりません。
本研究会の主な視座は以下の3点です。

① 子どもは、生まれながらにして自然環境に適応する能力をもっています。子どもは常に自然界の危機に直面していますが、発達の危機に対する防衛機制(心の理論)は、決して弱くて受動的なものではありません。「おとな社会」は子どもをパターナリズム(家父長的温情主義)から解放し、「子どもの視点」を尊重すべきです。私たちは、子どもを受動的に「教育される対象」とは捉えず、主体的に「まねる・まなぶ・ならう学習」の主体者として捉え、そのための発達環境(家庭・学校・地域)の再生を支援します。

② 子どもの対象年齢は0歳から14〜15歳までとし、もう一つの基本的人権ともいうべき「子ども主権」を提唱しています。これは、自ら選択した行為の結果を評価できない子どもが自らを守るための対抗手段であり、「自己責任なき自己選択権(意思表明権)」のことです。

③ 貧困や格差による「社会的弱者」は存在しますが、「障害児」という子どもはどこにも存在しません。「障害児」概念は行政用語であり、現代「おとな社会」の共同幻想にほかなりません。「始めに子どもありき」の視点に立ち、「発達に特別なニーズをもつ子どもを『障害児』と呼ばないで!」と訴えています。 本研究会は、「子どもの側から考える」子ども論を構築し、地域社会の中で「子どもと共に生きていく」実践を支援します。「子どもからのまなざし」に寄り添うさまざまな臨床現場(教育・医療・心理・福祉)の大人/専門家が集い、相互研修と自己点検の場を構築しようではありませんか。                                      2011.10.30起草

      呼びかけ人(五十音順)

石川 憲彦 林試の森クリニック 児童精神科医
石神 亙 (社福)大阪府衛生会附属診療所 児童精神科医
亀口 公一 NPO法人アジール舎 発達心理カウンセラー
川端 利彦 児童精神科医
谷奥 克己 (社福)インクルーシヴライフ協会 施設長
堀 智晴  常磐会学園大学教員 保育・教育実践研究